辺境音楽の病歴

ps. you rock my world

Laurence Crane - Chamber Works 1992 - 2009 (another timbre)

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played by Apartment House

 

イギリスの作曲家Laurence Craneによる楽曲の作品集であり、一聴すると物静かな室内楽

 

レーベルの作品紹介ページには、Michael Pisaroによる相当深読みされた考察が掲載されているけれど、素直にこの作品のサウンドをそのまま理解すると、第一に、これはやはり精密に作曲され演奏されたミニマルな室内楽であることに間違いはない筈。

しかし、精密に作曲され演奏されたという点が、当時のanother timbreというレーベルにおいては特異であり、さらに書き添えると、この作品によってレーベルのその後の方向性が示されたとも言える訳で、後にレーベルオーナーであるSimon Reynellがインタビューでも述べたように、この作品がレーベルに与えた影響は大きい。

それまで主に即興的な実験音楽を発表していたanother timbreにとって、作曲された楽曲のみで構成された2枚組の作品は、現代のクラシック音楽シーンにおいてレーベルをアピールする切っ掛けになっただけでなく、新たな境地を開き、その結果現在レーベルが示しているミニマルな室内楽的音楽への方向性を決定づけたとも言える。

 

Apartment Houseの名演がこの作品の重要なファクターとなっている点も見逃せない。

 

クラシックとアンビエントと現代音楽の中間と言えるような独自の世界観であり、休符を多用することで表現される音の間合いや余韻の美しさをコンテンポラリーなサウンドスケープの中で見事に描いている。

Tomás Cabado & Christoph Schiller - unconscious collections (another timbre)

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played Tomás Cabado and Christoph Schiller

 

2名のギタリストによる実験色の強い作品。

ここ最近のanother timbre室内楽の色が強い作品のリリースが多かっただけに、この作品のサウンドは際立っている。

 

アコースティックなノイズをバックにして、散らばっていくようなスピネットとギターの音色がコラージュ的に扱われるサウンドが印象的。

完全即興の1曲目から同じテンションで続いていく2曲目と3曲目はメンバーそれぞれにより作曲された楽曲であり、レーベル初期のアヴァンで実験的なサウンドを彷彿とさせる。

緊張と解放を行き来するような音の配置には、“unconscious”のタイトル通り、無意識であり非構造的なバランスで成り立っていると感じられる。

Partial - LL (another timbre)

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Performed by Noé Cuéllar,Joseph Clayton Mills

 

スリフトショップの骨董品を用いて製作された作品。

フィールドレコーディングの要素も含んだ無軌道で完全な即興は、不安定でノイジーな持続音によるドローンといった趣。

Luc FerrariArt Ensemble Of Chicagoの中間と例えたくなるような前衛的な響きを湛えつつも難解な構成だけで推し進める展開ではなく、奇妙なバランスでメロディ感を孕んだサウンドスケープは、アンティークのオルゴールを用いたキュートな3曲目の美しさを際立たせる前振りだと考えることもできるかもしれない。

Taku Sugimoto - h (another timbre)

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Cristián Alvear - guitar

Taku Sugimoto - guitar

 

東京の即興・実験音楽のショップftarriでの演奏を収めた作品。

2本のギターがハーモニクスを重ねながら、静かな響きでスケール感のあるサウンドスケープを描いている。

 

無軌道にも聴こえるギターの鳴き交わし合いは、緻密に音を配置しているかのような構成でもあり、

整然とした全体感からは、水を一杯に張ったコップに雫を一滴ずつ注ぐような緊張感も感じられる。

アヴァンなアプローチを挟むこともなく、およそ43分間に渡って単純な音色を滔々と紡いでいく演奏と態度からは、禅の姿勢のようなものすら感じられる。

Jürg Frey,Cristián Alvear - guitarist,alone (another timbre)

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Cristián Alvear - guitar

 

極端に静謐な音の連なり。

リヴァーブを際立たせて飾り付けるようなこともなく、朴訥とした音を淡々と繋げていく演奏。

50もの小曲を収めたdisc1、長尺の3曲が収められたdisc2、どちらにも徹底したミニマルな演奏からは潔ささえ感じられる。

 

か細く、内向的で、儚いサウンドは、それ自体が既に余韻のように弱々しく、間遠な響きを漂わせている。

Klaus Filip & Leonel Kaplan - tocando fondo (another timbre)

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Klaus Filip - sinewaves

Leonel Kaplan - trumpet

 

薄いノイズのような持続音の響きが、心地良さと違和感を行き来する。

ドープなサウンドスケープからは宙に浮いているかのような錯覚を感じさせられる。

 

トランペットのLeonelはジャズを出自として、フリージャズと前衛音楽を音楽的背景とし、Klausは音声データを正弦波としてプログラムしたサウンドを今作に用いている。

 

Leonelの自宅で、暑い夜にレコーディングされたというこの作品からは、不思議と静かなサウンドの向こう側にその熱を感じる。